方針


境界の鍼の方針

生き残るためには、生命体は環境に対して敏感でなければならない。
この感受性は生命体を取り囲む膜に基づいており、この膜は食物や養分を摂取し、老廃物を排出するという風に選択的透過性を持っている。
選択性、あるいは異なる刺激を弁別する能力は認識や意識の基礎である。
つまり、正確に言うならば、意識とは体表の現象であると言ってよいと思う。


アレクサンダー・ローエン著 「からだのスピリチュアリティ」より
 


  1. 方針
  2. 鍼の頻度や回数について




方針について


当院では治癒力発揮のために、それを妨げている問題を少しずつ改善していきます。

<具体的には>
緊張状態が継続すると心身のバランスを回復する働きが滞り、様々な影響を及ぼします。
しかし問題(症状)が現れても、習慣化された緊張は認識できなくなっています。
また、自身の緊張を何となく感じてはいるものの、

○どこが緊張しているのか判らない
○いつ(どのような状況・場面で)緊張しているのか判らない
○なぜ(何に対して)緊張しているのか判らない
○どうやって緊張を解消するのか判らない

などの場合もあります。

慢性的な緊張状態は心身の習慣となっています。
そして習慣となった緊張状態は自己イメージと結びつき、それを維持・存続・拡大させようとする強い力がはたらきます。
(記憶を基にしている自己イメージは”イメージ”であり対象ですが、そのように認識できない部分が不要な緊張と結びついています。)
そのため緊張を変化させようとすると、強い抵抗(不安)が生じます。
基本的には緊張が大きいほど変化への抵抗も大きいです。

そのような習慣的な緊張状態を解消する端緒となるのが体表(皮膚感覚)です。
緊張状態では様々な偏りが生じていますが、それは体表にも反映されています。
体表は緊張や不安(分離の感覚)と密接に関連しており、体表のツボは緊張を解いていく要点です。
そして変化への抵抗(緊張)が強く大きいほど、明確に認識できない微細な刺激が重要になります。

体表のツボに鍼をすると、意識できなくてもツボは反応します。
そしてツボの変化は全体(心身)へと波及していきます。
鍼を受けた人は変化に気づくまでに間(ま)が生じ、身体感覚を再認識し、それまでとの差異を感じ取ります。
(敏感な人は早く様々な変化を意識しますが、一般的に実感しやすいのは筋緊張の変化です)

差異を感じ取ることは識別であり、情報の更新となります。
閉ざされていた(意識できなかった)心身の現状を感じること、問題に気づくこと(対象化)が治癒や回復へ向かう第一歩となります。
それまで認識できなかった問題が表層へ出てきて、状態や状況に応じて処理されていきます。

根強い習慣が一度で解けることは稀です。
施術で生じた変化は多くの場合、それまでの習慣によって次第に元の状態へと戻されていきます。
それでもよい状態の感覚(普段の状態との差異の記憶)は完全には失われず、その差分を埋めていくプロセスが始まります。

鍼を続けていくことで体表を意識する能力(識別力や集中力)が向上し、それまで無自覚だったパターン・傾向・癖(※1)などをより明確に理解するようになります。
緊張を解消する力が少しずつ向上していきます。
注意と理解が深まることで緊張の習慣が弱まり、緊張が解けた状態がより自然なものになっていきます。

そういったプロセスは鍼刺激と効果の学習であり、緊張の習慣からの脱学習です。
身体(皮膚)を通じて学んだことは積み重なっていきます。
それまでの緊張のパターンを捨てて、よりよい状態のための新たなチャレンジ(学習)をしていくことになります。
緊張の習慣は心身の反応(防衛)システムの一部ですから、それを改善・再構築していくということにもなります。

東洋医学的には「気の滞りを解消していく」と言えます。
東洋医学では様々なはたらきを総合的に「気」としています。
水が高い所から低い所へ流れ、電気が電位の高い所から低い所へ流れるように気も流れています。
川に障害物があれば水の流れが妨げられるように、皮(皮膚)に緊張や疲れ(※2)があれば気の流れは妨げられます。
障害を除去することで流れはよくなり、抑えられていた心身の機能(治癒力)が高まります。

はじめは意識できなくなっている心身状態に気づくことからスタートして、よい状態がより長く、広く、深くなっていくことを目指していきます。
やがて鍼による変化は次第に自らの注意(気づき)として再現されるようになり、施術を受ける必要性が低下し、自立していきます。

強い刺激で強制的に心身(症状)を変えようとするのではなく、着実な回復を目指すアプローチです。
そして身体感覚を再認識し、周囲や世界を学び直していくある種のトレーニングです。


(※1)「癖」はやまいだれに”辟”であり、”辟”には「中心からそれる」等の意味
(※2)「疲」はやまいだれに「皮」

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鍼の頻度や回数について


当院の鍼治療は強い刺激で一時的に感覚を麻痺させるわけではありません。
続けていくことで次第に変化が現れて、それが少しずつ定着していきます。
そのプロセスは何かの練習や学習と同じであり、自転車に乗れるようになっていく過程と似ていると思います。
(実際は元々あるものに気づくだけなので自転車に乗るより直観的です)



そして「トレーニングの5大原則」は当てはまることが多いと感じています。

1.漸進性の原則・・・少しずつ効果を積み上げていくこと
2.全面性の原則・・・特定の部分だけでなく全体をみていくこと
3.意識性の原則・・・本人が目的を意識して主体的に取り組むこと
4.個別性の原則・・・個人の目的や現状に合ったアプローチをすること
5.反復・継続性の原則・・・一定期間に渡って定期的・継続的に取り組むこと


針治療の回数や頻度は個人の状態(現在の症状や回復のスピード)や状況によって異なります。
当然のことながら問題が慢性的で深刻であれば、より長期的・継続的な取り組みが必要になります。
症状が激しい場合は最初の数回は間隔をつめて、変化や方向性をしっかり確認するとよいと思います。
それで方向性が合っていると感じたら、その後は定期的に続け、よい状態が安定して続くようになれば、少しずつ間隔をあけていくのが効果的だと感じています。
基本的に若い方のほうが変化は早いことは多いですが、高齢者でも続けていけば変化は生じます。

続ける途中で浮き沈みがあります。
特に慢性的な問題の場合は回復過程において抵抗を感じることや、問題(改善)が行ったり来たりすることが多いです。

溜まっていた疲れが表に出てきて一時的に調子が崩れることもあります。
最も気になっていた問題が気にならなくなることで他の問題が気になりはじめたり、それまで意識できなかったより深い問題を認識することもあります。
よくなってきた問題が何かの出来事をきっかけに大きく後退することもありますし、それまでできていたことが一旦できなくなることもあります。
そういった変化、変動を無理に抑えることなく自力で乗り越えていく中で、長い目で見ると全体として少しずつよくなっていきます。

たとえ継続して治療が受けられなくても身体が微細な刺激で心地よい方向へ変化した体験はどこかに残ります。
また、たとえ一回だけでも既にその方に変化の準備ができていた場合は大きなきっかけとなることもあります。
方向性を知ること、可能性に気づくことはその後改善していく力となります。


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