施術後の反応
施術後の反応と排泄作用
しかし接触を熟知し理解して、平安を楽しむ人々は、実に接触がほろびるが故に、快を感ずることなく、安らぎに帰している
ブッダのことば(スッタニパータ) 中村元訳より
施術後の反応
体表への鍼刺激はほとんど感じないほど微細です。
刺した後の痛みや出血(内出血)などはありません。
しかし「好転反応」などと呼ばれる反応が一時的に生じることがあります。(出ないこともあります)
それは経験上、鍼で皮膚を突き破る(侵害する)、強く押す・揉む、皮膚を焼く、電気を流す、などの強い刺激を多く受けた後の反応とは異なります。
強い刺激を受けるとそれ自体で疲れてしまうことがあり、特に敏感な体質の方はそういった反応(もみ返しなど)が起きやすいです。
体表のツボに鍼をすることで緊張(不注意)状態が解けると、それまで習慣化していた心身の偏りが回復していきます。
麻痺、固着、凍結していた心身のバランスが変化するのに伴い、心身に様々な反応が生じてきます。
反応は人によって、そして状態(状況)によって様々ですが、
- 眠気やだるさ
(逆に一時的に冴えてくることもあります) - 筋肉や古傷の疼き
- 部分的な熱感、軽い発熱
- 排出・排泄機能の活性
- 記憶の想起
- 疲れやストレスの自覚(表面化)
大切な仕事やイベントの後など張り詰めた状態から解放された時に、「それまでの疲れがどっと出てきた」といった経験は多くの方がしていることかと思います。
また、それまで意識できていなかったことにふと気づいたり、信じ込んでいたことが事実ではなかったと知った時に一時的に混乱した経験もあるかと思います。
鍼で緊張状態が解けると、部分的(一時的)にそれらと似たようなことが起きることがあります。
多くの場合、緩やかに反応が生じます。
全体が疲れ過ぎている場合や、目の疲れ、考え過ぎ、噛み締めなどで顎関節や頭蓋骨がガチガチに固まっている場合などは強く(激しく)出てくることがあります。
(その方の置かれている状況によっても出方が異なります。しっかり休むことができる時には強めに出て回復が大きく進むこともあり、そういったことを無意識に判断しているように感じます。)
基本的に偏りや緊張が強く大きければそれを解消するエネルギーもまた大きくなりますが、長くても数日もすれば一連の反応は自然におさまっていきます。
そして全体が調整されて、それ以前よりスッキリして身体を軽く感じたり、落ち着いたり、元気になったりします。
施術後にそういった反応が出たら(出なくてもですが)TVやPC・スマホ、コーヒーやお酒などはできるだけやめて、エネルギーを回復に当てて下さい。
また、ゆっくり経過を観察して下さい。
特に子供はほとんど反応が出ないか、とても早く過ぎます。
反応に対して慌てて何かをする必要はありません。
たとえば、固まって動きにくくなっている部分が動き始めるときに熱感や痛みを感じることもありますし、疲れ過ぎていると軽く熱が出ることもあります。
気だるく眠くなったり、逆に妙に頭が冴えて眠りにくくなったりすることもあります。
しかし、そういった反応を抑える薬(シップ、痛み止め、風邪薬、睡眠薬など)やカフェインは必要ありません。
むしろ何かすればする程(抵抗するほど)、こじれて長引くことが多いです。
あまり頑強に抵抗すると、緊張状態からの回復を止めることになります。
自然(治癒力)に任せて休息した方が後の経過がよいです。
そして反応を観察して理解が深まることで、経過がスムーズになっていきます。
排泄作用について
体表の鍼治療を受けると、便、鼻水、汗、 咳などの排出・排泄機能が一時的に高まることがあります。
それまでの緊張状態が解けて、心身の働きが切り替わることなどで自然と生じます。
続けていくことで体質(習慣)が変化して、慢性的な便秘が解消されていくことも多いです。
興味深いところでは、長年にわたって溜め込んだ不要なモノ(本や衣類など)を片付け始める人も多いですし、人間関係も整理されていきます。
特に、ここで行っているのは皮膚への鍼です。
皮膚は現代医学において排泄器官のひとつとされています。
東洋医学では皮膚は肺と関連しており、肺は大腸と表裏の関係です。
“肺の合は皮なり” 素問:五臓生成篇皮膚-肺-大腸は排出・排泄系統と言えます。
“肺は大腸に合す” 霊枢:本輸篇
そして正経と呼ばれる12本の経絡は肺経がはじまりです。
鍼で体表(皮膚)のツボへはたらきかけることで、そういった不要な物事を外へ出す機能(排出・排泄・意識化)が最初に高まっていきます。
呼吸も「呼=吐いて・吸=吸う」で、まず出します。
不要な物事を出すことで、自然に必要な物事が入ってくるのが基本です。
こういった作用は”discharge:ディスチャージ”という言葉がしっくりくると思われます。
辞書によると、『放電、あるいは荷降ろし、解放、放出、排出、義務の遂行などを意味する』とあります。
皮膚上のツボに鍼が触れると何か皮膚表面に変化-discharge-が生じて、老廃物や有害物質の排出作用-discharge-が高まったり、慢性的な筋緊張というそれまで背負ってた重荷を降ろしたり-discharge-、繰り返される想念から解放-discharge-される、といったところでしょうか。
■適応
傷んだ物を食べた場合や、異なる環境へ旅に出た場合の単純な下痢などは、無理に薬で止めるよりも、出してしまった方がはやく回復します。
また、合わない食べ物や薬等を摂取したときに生じる蕁麻疹(ジンマシン)なども排泄作用の一つです。
風邪による発熱もウイルスなどを攻撃し、排出するための免疫(治癒)作用の一部です。
ここではそういった排出・排泄作用を無理に抑えることはしていません。
そういった排泄反応を無理に止めれば出すべきモノが体内に蓄積していきます。
体表に鍼をすることで全体のバランスが整っていくと、不要な物は自然と排泄されます。
興味深いことに、鍼治療をはじめると家の中の不要なものを片付けはじめる(整理する)ことも多いです。
排出・排泄作用は物質に対してだけでなく、心にとっての有害刺激(モラルハラスメントなど)でも同じです。
鍼を受けていくことで抑え込んでいた感情(記憶)などを消化し、排出・排泄していきます。
忘れていたり気づいていなかったことが表層に出てくることもあります。
それらは少しずつ認識され消化(排出・排泄)されていきます。
特に子供の頃に怒りを出すことを許されない(できない)環境で育つと、抑圧が癖になっています。
そういった癖は心身に様々な問題を引き起こします。
鍼で緊張が解けるとそういった抑圧が弱まって、未処理のままだった膨大な問題の処理(消化・排泄)がはじまります。
それまで怒ることだと思っていなかったことに対して怒りを感じはじめることもあります。
しかし次第に客観視され、処理されて、周囲との関係性が以前より無理のないものに変化(治癒)していきます。
ここでは無理に感情を意識させるようなことや、何かを思い出させるようなことなどはしていません。
(心理カウンセリングや分析などは行っていません)
本人の準備ができたとき(治癒が進む時)、自然とそうなっていきます。
排出・排泄できる能力以上の有害物質や有害刺激(人間関係)が周囲にある場合は移動などの選択が必要になります。
適応の能力は人によって様々です。
たとえ他者が「この程度なら大丈夫、問題ない」と言ったとしても、それが全ての人に当てはまるわけではありません。
「自分自身はどうなのか」が大切です。
自分自身が移動して環境や関係性を変えていくことが必要になる時もあります。
環境や関係性を変えて新たな適応をしていくことは大きなストレスを伴ないます。
それが周囲に理解されない決断であれば尚更です。
しかし決断や行動を支えるのもまた治癒力です。
鍼治療はそういった治癒力の発揮をサポートします。
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