小児はり


小児はりについて

“子供たちのことで、何かを直してやろうとするときにはいつでも、 それはむしろ我々のほうで改めるべきことではないかと、 まず注意深く考えてみるべきである”

カール・グスタフ・ユング

当ホームページをご利用していただくにあたり、まずはこちらのページの「ご利用前に」をご確認下さい。
1.小児はりとは?
2.皮膚と緊張
3.受け方
4.観察
5.実践




小児鍼とは?



小児鍼は赤ちゃんや幼児に対して行う、皮膚への刺さない鍼のことです。
金属製の棒(てい鍼)やヘラ(イチョウ鍼)で行うところが多いです。
痛くない、何となく心地よい刺激です。


当院は皮膚への刺さない鍼治療を専門に行っています。
子供も大人も皮膚(体表)に鍼をしており、基本に違いはありません。

ここでは乳幼児は「てい鍼」(下の写真)で行い、大人の場合は通常の鍼(ごう鍼)で皮膚のツボに接触させることが多いです。
ローラー鍼や集毛鍼を使うことはありません。
(乾布摩擦のように一律に満遍なく皮膚を刺激をすることはしていません)



赤ちゃんや幼児の場合、実際に施術している時間は大体5分以内です。
人によって(状態や状況によって)施術する時間や施術場所は異なります。

小児鍼の効果として、よく言われるのが赤ちゃんの「疳の虫(かんのむし)」です。
キーキーわめく、イライラや癇癪、夜泣きや夜驚症、そして夜尿症(おねしょ)などがあげられます。

見た目としては、青スジ、目がつり上がる、眉に力が入っている、髪が逆立つ、などです。


疳(かん)はやまいだれに甘と書き、甘いものの食べ過ぎ等による消化系統の乱れから生じるとも言われています。
また、精神的ショック(ストレス)があった場合も消化活動や疳に影響します。
小児鍼は消化や排泄、情緒を整え、治癒力を高めます。






皮膚と緊張



小児鍼(皮膚への鍼)は赤ちゃんの疳の虫だけではなく、乳幼児期を過ぎた子供に対しても効果があります。
慢性的な緊張や不安は治癒力を妨げ、やがてそれ自体が心身の問題(症状)となってあらわれてきます。
そういった問題を少しずつ解いていくことは小児鍼(皮膚への鍼)が得意とする分野です。


児童心理学者のM.S.マーラーは子供が母親と一体化した状態から自立していくプロセスを「分離-個体化」と名づけています。
(「乳幼児の心理的誕生 母子共生と個体化」)

それは子供が3歳ぐらいまでに安定した自他境界を確立し、少しずつ母親と離れても安心感を保ちながら対象(世界)と接していく成長過程です。
そういったプロセスがうまくいかない場合、子供は分離の感覚から不安や緊張に覆われ、”個体化”が妨げられるとされます。

また、ジョン・ボウルビィやメアリー・エインスワースなどによって提唱された愛着理論では、生後6ヶ月頃より子供は特定の保護者との親密な関係性を段階的に構築し(愛着行動)、それを「安全基地」として外の世界に向かって探索(チャレンジ)していけるようになると言われています。
そのような関係性(安心して戻れる場所)が構築できない場合は問題(愛着障害)が生じるとのことです。

特定の保護者との親密な関係性の欠如が子供の発達に影響を及ぼす大規模な調査としては、「ブカレスト早期介入プロジェクト(BEIP)(※1)」があります。
衣食住が足りて養育者が配置されていた施設(孤児院)でも、関係性の乏しい環境では子供の脳の発達やその後の精神に影響が出ることを示しています。
社会・情緒的発達は2歳が一つの分岐点となっているようです。


子供の発達やそれに伴なう緊張(不安や分離の感覚)に関連していると考えられるのが体表(皮膚)です。
科学の分野では、近年神経系と同じ外胚葉由来の皮膚表皮で神経伝達物質や受容体が続々と発見されています。

そして有毛皮膚に終末がある神経(C繊維)でも近年新たな発見があり、「安心感を伴なう心地よい漠然とした触感をゆっくりと伝える専用のシステム」(※2)などと呼ばれています。
C触覚繊維によって脳に伝えられる“広汎で心地よい信号”が心身(の発達)にどのように影響するか等の研究も行われているようです。(※3)

皮膚への適切な刺激はオキシトシンの分泌を促進しますが、オキシトシンは自律神経系、神経伝達物質系(ドーパミン、セロトニンおよびGABA/グルタミン酸)、免疫系などと相互作用があると言われています。

脳の報酬系とも関連する枠組み”オキシトシンシステム”は3歳までに基本的な発達が完了し、深刻なストレスによってその発達が妨げられた場合、中毒や依存といった問題への影響が指摘されています。(※4)

また、母親が十分になめたり毛づくろいをして育てたラットとそうでないラットを比較した実験では、扁桃体のベンゾジアゼピン類レセプターの数に有意な差があったとのことです。(※5)
ベンゾジアゼピンには不安を緩解する作用や筋弛緩作用があり、抗不安薬や睡眠薬などにも使われています。
(オキシトシンは自閉症スペクトラム障害との関連性も研究されているようです(※6)が、ベンゾジアゼピンなどと同じく外部から投与しても問題の根本的な改善は難しいと思われます。)


観点によって説は色々ありますが、 子供が生まれ持った肯定感や安心感を内に保ったまま成長していくためには、乳幼児期の保護者との直接的な温かい触れ合い、目(表情)と目のコミュニケーションなどは欠かせません。
それは鳥が卵から孵化するのに温めてもらう必要があるのと似ていると思います。

心地よい触れ合いや注意深く見守ってもらうこと自体が子供の健全な成長・発達に必要な栄養素です。
それによって体表(皮膚感覚)を意識する能力が養われ、自他境界の基本となり、身体イメージや精神的な自己イメージへとつながっていきます。
乳幼児期を過ぎると少しずつ間接的な接触に移行していきますが、疲れ過ぎた時や傷ついた時など、子供はやはり保護者との直接的な接触(安心感)を求めます。
そういった経験を重ねていくことで緊張を解く能力(システム)が培われ、他者(対象)と適切な関係を構築していきます。

境界意識や緊張を解く能力は生まれ持ったものに加え、環境(関係性)によって培われるため個人差がとても大きいです。
そして能力には限度や限界があります。
そういった能力を大きく超える状況に陥ると、子供は緊張を解除できなくなります。(それは大人でも同じです)

緊張は全体(全身)的なこともあれば、特定の部分(機能)や特定のパターン(場面)で生じることもあります。
習慣化した緊張は治癒力を妨げますし、次第に緊張自体が心身の問題(症状)として現れてきます。
何かショックがあった時や環境が大きく変わった時(転校、親の離婚、死別など)に、緊張や不安が症状となって表面化してくることは多いです。

乳幼児期の疳の虫で特徴的な表情である、眉間にシワが寄る、目がつり上がる、常に表情が固いといった問題は、身体が成長して小学生になる頃には爪かみ、歯ぎしりや食いしばりなどとなり、顔面筋(表情筋)や咀嚼筋等の緊張が強まってきます。
それはチック、食いしばり、噛み合わせや虫歯、姿勢などにも影響します。

消化や排泄も緊張(ストレス)に影響されやすく、夜尿症や頻尿、腹痛や便秘・下痢といった問題が出てきたりします。
痛みに過敏になったり発熱などとして現れてくることもあります。
天候(気圧)の変化によって自律神経が乱れ、一時的に症状が悪化することも多いです。

中学生ぐらいになると身体面では頭痛や頭重感、肩こり、顎関節症(夜間時のかみ締め)、過敏性腸症候群、胃炎・十二指腸炎などの慢性的な炎症、吐き気(周期性嘔吐症)、過呼吸(過喚起症候群)、手足の冷えやのぼせ、食欲の異常(摂食障害)、睡眠不足(睡眠の質の低下)、生理の異常、自律神経の問題などが出てきたりします。
(こういった問題の原因全てが緊張やストレスというわけではありません。症状が長期間続く場合はまず病院での検査をお勧めしています。)

精神面では緊張に覆われているとイライラや抑うつ、不安が強くなってきます。
自己イメージや自他境界が安定せず、肯定感が低いと自分自身や他者を大切にすることができません。
人間関係のトラブル(いじめ等)も起きやすくなりますし、集中して何かに取り組むことが難しくなってきます。


小児鍼を含む体表(皮膚)への鍼がどのように効くのか、明確な作用機序は(自分には)分かりません。
鍼の作用機序論は小児鍼に限らず、その時代の科学的知見や発見などによって変化していきます。
無数の要素が絡み合い相互作用している中で、一つの論に固執して他の可能性を除外することもできません。

しかし経験上、 身体が不調だったり精神的なストレスを抱えてる時は体表(皮膚感覚)も場所によって鈍っていたり昂ぶっていたりします。
そういった場合に鍼(小児はり)をしていくと過度な緊張が解けて全体のバランスが回復していきます。
問題(症状)によって程度の差はあれど、少しずつ調子が整ってきます。
(緊張やストレスとは直接関係のない完治が難しい問題でも、全体の調子が整うことで日々の生活が楽になることは多いです)

続けていくことで鍼の効果は学習されて(トレーニングとなって)、少しずつ緊張を解く能力が高まります。
そして自信や自主性が回復していきます。
臨界期や感受期もあり、進展の程度は様々ですが基本的に子供は大人よりも変化が早いです。

こういった取り組みは何か強い刺激や薬で問題を一時的に抑える(感じなくさせる)やり方とは逆のアプローチです。
元々東洋医学は心身のつながりを重視していますが、皮膚への鍼は心身の緊張を解き、治癒や回復をサポートします。





※1 「乳幼児期の施設養育がもたらす子どもの発達への影響について」  「ルーマニアの遺棄された子どもたちの発達への影響と回復への取り組み」著チャールズ・Aネルソン他
※2「触れることの科学」 P102より 著デイヴィッド・J・リンデン 岩坂彰(訳)
※3「The functional organization of cutaneous low-threshold mechanosensory neurons.」
  「Discriminative and affective touch: sensing and feeling.」
  「Quantifying the sensory and emotional perception of touch: differences between glabrous and hairy skin」など
※4「Individual differences underlying susceptibility to addiction: Role for the endogenous oxytocin system」
※5「Maternal care during infancy regulates the development of neural systems mediating the expression of fearfulness in the rat」  
※6「自閉症とオキシトシンの研究:東京大学/金沢大学」 「オキシトシンと発達障害」







受け方


皮膚への刺さない鍼(体表の鍼、小児鍼)は刺す鍼とは異なる技術です。
自分も様々な鍼治療を受けてきて、学び、施術する側となりましたが、自分の経験からすると別物です。
そして「小児はり」「刺さない鍼」と言っても、治療院や施術者によって千差万別です。

そのため子供に小児鍼を受けさせる前に、まずご自身で皮膚への刺さない鍼治療を受けてみるとよいと思います。
皮膚への鍼が子供にしか(○歳までしか)効かないということはなく、もちろん大人にも効きます。
(ただし効果の出方や変化のプロセスは刺す鍼とは異なります)

基本的に大人の方が子供よりも技術を要します。
そのため、そこの治療院(施術者)の刺さない鍼がご自身(大人)に効けば子供にも効く可能性は高いと言えます。
特に親や近親者であれば、子供と体質等が似ていることが多いですからなおさらです。

まずご自身で刺さない鍼を受けてみて、効果を実感して信頼できると感じたら子供に勧めてみて下さい。
子供のためにお風呂の熱さを確かめたり味見をしたりするように、こういったことは自分の身体(皮膚)感覚に基づいて判断する方が適切です。
あまり頭でっかちになっていると、派手な宣伝や肩書き、施設(設備)の豪華さなどに引っ張られて実際の身体感覚とはズレていくことがあります。

特にローラー鍼などでなく、普通の鍼(ごう鍼)や「てい鍼」で刺さない鍼をされると分かりやすいと思います。
皮膚感覚はとても賢いです。
(ただし強い刺激を受けるとそういった微妙な感覚は一時的に鈍くなりますから、刺さない鍼だけで受けてみて下さい)
そして皮膚への刺激が不快でないことはもちろん大切ですが、刺激自体の気持ちよさよりも、その後の経過(心身がどのように変化していくか)が重要です。

それで子供にも勧めたいと感じたら、たとえまだ子供が話せなくても、
「お母さんは受けてみてよかったんだけど、○○ちゃんも小児はり受けに行く?」
などと問いかけをして子供の意思を確認して下さい。
しっかりコミュニケーションを取った方が、子供もより安心して鍼を受けることができます。

逆に、ご自身が本心では受けたくないと思っているものを子供に強いたり、半信半疑のまま子供に勧めたりしないで下さい。
また、「まず子供に受けさせてみて良さそうだったら自分も受けよう」など、子供を毒見役に使うような真似もしないで下さい。
そのようなことをすると、子供は混乱して逆に治癒力を妨げることになります。

子供との接触(触れ合い)を心地よいものにするためにも、ご自身の疲れやストレスを解消していくことはとても大切です。
気持ちにゆとりが生まれて自分自身や子供に対して気づくことが多くなりますし、対応の幅が広がります。

もし親が慢性的に疲れていたり緊張していたりすると、子供の感情を意識しにくくなり、共感や理解が減ったり弱まったりします。
子供が触れてほしい時や触れてほしい場所への温かみのある接触でなく、冷たい(否定的・高圧的な)接触となりがちです。

そして子供は親を模倣(真似)しています。
「この子はいつも眉を寄せているんです」と心配そうに言うお母さんの眉が寄っていて、子供はそれを真似していることもあります。

まず子供の問題を改善したい、という考え自体は悪いものではありません。
しかし親のコンディションがよくなることは子供にとっても大切なことです。
子供のためにもまず自分(親)が試し、取り組んでいってほしいと思っています。


<回数や頻度>

小児はりを受ける頻度は、状態や状況により様々です。
当然のことながら問題が慢性的であれば、長期的・継続的な取り組みが必要になります。
当院では週に一回程度でしばらく続けてみるのがよいと感じています。

症状が強い場合は、できれば最初は少し間隔をつめて変化や効果を確認するとよいと思います。
それで効果を実感できたら、方向性が合っている、改善の可能性があるということです。
(もし効果を実感できなければ小児鍼の適応ではないか、その先生とは合わなかったということだと思います)
よくなって安定してきたら、徐々に間隔をあけていくことになります。
あせらず、気長に根気よく続けていくことが大切と考えています。



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観察


小児はりで激しい反応が出ることは滅多にありません。
緊張状態が変化することで自律神経の切り替わりなどの変化が生じますが、たいてい大人よりスムーズです。

しかし小児はりの後は、特にはじめのうちは、子供の経過を注意深く見守って下さい。
心身の反応(変動)は生じますし、それは子供にとって普段とは異なる体験です。

治癒プロセスにおける心身の変動は様々です。
たとえば、風邪の時にウイルスと戦うための発熱や咳や鼻水、傷んだものを食べた時の下痢などはその代表です。
当然のことながら、そういった時はいつもより保護者の注意が必要となります。

必要な時に保護者の注意(ケア)が足りないと、子供は安心して治癒プロセスを体験・学習することができません。
不安から親に注意を向けてもらうため問題を起こしたりしますし、それでも注意が向けられない場合は見捨てられ感や孤独感、無力感が生じてきます。
そういった記憶は染み付いて、自信や肯定感を損ないます。

また、子供は自分が体調が悪い時に(それが理由であってもなくても)親がイライラしていると、治癒反応を無理に抑え込むようになります。
子供を過剰に心配して薬漬けにするのも同じです。
それらは注意深く見守ること(観察)とは逆の無視(ネグレクト)や過干渉です。

治癒反応が「よくないこと」「悪いこと」として子供の記憶にインプットされてしまうと、その後も治癒プロセスに身を委ねる事や自然な回復を待つことができなくなります。
小さな問題も拗れていきますし、治りにくくなっていきます。
そういったパターンが解消されなければ大人になっても治癒反応を薬や強い刺激で抑え込むパターンを繰り返してしまいます。
それは治癒反応を抑えこむことで生じる身体の不調だけでなく、感情の抑圧や依存・中毒とも関連します。

子供が治癒プロセスを安心して体験・学習していくために、小児はりの後は普段よりも子供を注意深く見守って下さい。
治癒に伴なう心身のさまざまな変動は保護者に見守られているという安心感によって緩和されます。
プロセスを学んでいくことで子供は次第に保護者の注意を必要としなくなっていきます。

治癒のプロセスを子供の時期に学ぶことはとても大切だと考えています。
その後の人生において自信の種(たね)となり、自分の道を進んでいく支えとなります。



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実践


自分で子供に小児鍼をできるようになると、いろいろ便利です。
子供がちょっと体調を崩した時や精神的なショックがあった時、慢性的な問題の場合の長期的な取り組みなどに有用です。

近年、日本では共働きが強く推進されており、子供を早くから保育園等に預けることが多くなってきています。
そして家庭は日々時間に追われて、緊張の強い生活になりがちです。
もちろん、「子供と長時間一緒にいること=温かい触れ合い」というわけではなく、忙しい日々の中でも子供としっかり触れ合うことができていれば、多くの場合緊張に関する問題は出ないことでしょう。
特に小児鍼は短時間でも集中した直接的な触れ合いとなり、子供の緊張や不安を解くのに役立ちます。


もしご自身で子供に小児鍼をしたい場合は、

1.自身で皮膚への鍼を受けて経過を観察する
2.子供が小児鍼を受けるのを見てやり方と経過を観察する
3.自身に対して鍼をして効果を実感するまで練習する
4.身近な大人(パートナーなど)に対して鍼をして効果を実感するまで練習する

それらのステップを経てから子供に行えば、たいてい問題なくできると思います。


小児鍼はとても簡単に見えます。(大工さんのカンナ掛けなどを見るのと似ていると思います)
そのため、「こんなことならすぐに自分でもできる」と考えてしまう方が多いのは当然と言えます。
そして本やマニュアルも数多く出ており、「こういう場合は○○経や○○のツボ」などと書かれていることもあります。
道具も(代用品含め)すぐ入手可能でしょう。

また、子供のことを心配していたり自身の疲れが酷い場合、つい焦ってしまうのも理解できます。
しかし、自分がされてみるとよく分かりますが、皮膚への鍼は下手にやられると大変不快です。
そして不快な刺激や刺激過多の場合、問題が悪化していくこともあります。

より正確に言えば、不快な鍼や刺激過多の場合でも症状が一時的におさまる(変化が起こる)ことはあります。
でもそれは問題を無理に抑えこんだだけで、子供の自然な反応を怒鳴りつけたり暴力で抑圧するのと同じです。
問題が収まったように見えても潜在化しているだけで、やがて酷くなって戻ってくるか他の問題として現れてくるなど長期的には悪化していきます。
(問題の悪化と治癒反応による一時的な変動は異なります)

不快な刺激でも乳幼児からはハッキリ文句を言われないので(実際は言葉以外で伝えてきているのですが)、スキルアップが難しいです。
いきなり子供を実験台にしてはいけません。

何事もセンスの問題はあり、一度見たり受けたりしただけでまずまずやれる人は確かにいます。
そういう人は程よくリラックスしていて感覚や洞察力が優れています。

緊張が強い人は静かに触れて感じ取ること、心地よく触れることや注意深く観察することなどが苦手だったりします。
当然のことながらより多くの練習が必要になるのですが、逆に緊張が強い人の方が地道な練習よりも「こういう場合はどこに鍼をするか」という外からの手っ取り早い知識を求めがちです。

しかし、感じ取る練習や触れる練習を疎かにしたまま外的知識に基づいて鍼をしても大して効果は望めません。
それどころかマイナスになることもあり、すぐ辞めてしまうことになります。

皮膚への鍼治療を学びはじめの内は、国家資格を取得した者同士の練習でさえ刺激過多や不快な刺激による悪化がしばしば起こります。
(適切な指導者の下での練習であれば酷いことにはならず戻せますし、刺す鍼や強く揉むことに慣れたプロのほうがそういった問題が起きやすかったりします。)

失敗は(学び始めの頃は特に)起こりうるものです。
そして一度でもそのような経験をすれば、「小児はりは誰でも簡単にできます」とは言えなくなります。
しかし、「小児はりをするための基本的な能力はほとんどの人に備わっています」と言うことはできます。
最初はとても緊張が強かった人が自分でも鍼を受けて興味を持って練習を続けていくことで、とてもうまくなることもあります。

これらのことから、当院ではいきなり親が子供に小児はりを行うのではなく、順次ステップアップしていくことを提案しています。
小児はりのやり方を形だけ知って子供に行うよりも、まず実際に自分自身で受けて練習を重ねていくことが大切と考えています。



小児鍼を子供に行うことで、(もしくは練習していくことで)、子供の境界をより尊重できるようになります。
もし、ご自身と親との境界が適切に設定できていない場合や親から境界を侵害されてきた場合、自分と子供との境界は大きなテーマとなります。

そういった問題はなかなか認識されません。
幼少の頃から親に言われされてきたことは、それがたとえ理不尽なことであっても強力な刷り込みとなっている場合が多いです。
そして問題を自覚していない場合の方が、子供に自分がされたことと同じようなことを繰り返しやすいです。(負の連鎖)。

ご自身が体表の鍼治療を受けていくと、そういった境界の問題をより明確に認識できるようになります。
そういった認識は自分自身が抱えている問題の改善へとつながりますし、子供の問題改善にもつながります。
(こちらもご参照下さい境界

また、たとえ問題意識があったとしても、子供にどのように接するか具体的な“仕方”が分からないこともあります。
自分自身が保護者に心地よく触れられた体験が乏しい場合、子供に心地よく触れるのを難しく感じることが多いです。
(より問題が深いと、「難しい」と感じることさえもできませんが)

その場合、小児鍼を練習していくことで、直接的に”境界の尊重”を学び、表現することができます。
子供の境界を尊重することはその存在を尊重することにつながりますし、それは自分自身への様々な気づきとなります。

遺伝子にまで影響すると言われる(※1)、世代を超えた負の接触(虐待)の連鎖を断ち切ることは容易ではありません。
自分がされてきたこととは異なることを1から学んでいく(むしろマイナスから学んでいく)ことになりますから、多大なエネルギーと時間を要する取り組みとなります。
しかしそれは実りのある学びとなると思います。

当然のことですが、子供が嫌がる時は無理に行わないで下さい。
そういう時やそういう時期はあります。

また、自分が子供に優しく触れることに何か葛藤を感じる時は無理に小児はりをしないで下さい。
そういう時はありますし、それを認めずに無理に行う方が問題がこじれていきます。
それが続くようであれば、自分自身の回復を先にした方がよいです。

大切なのは丁寧な観察と、時間をかけてゆっくりと進めていくことです。
あまり「治してやろう」などと気負わず、心地よい小児鍼の継続が問題の改善へつながっていきます。
鍼治療を通じて、親子とも元気で境界を尊重し合える関係づくりに貢献できれば幸いです。



“子どもは話しかけてもらい、この世界に習熟するように促され、尊重され、愛されていた。
これらは人間という種が期待するようになったものの一部である。”

「ルーマニアの遺棄された子どもたちの発達への影響と回復への取り組み」より チャールズ・Aネルソン他著
※1Epigenetic regulation of the glucocorticoid receptor in human brain associates with childhood abuse





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