筋緊張とストレス


慢性的な筋肉の過緊張やストレス

“オソイホド ハヤイ”

ミヒャエル・エンデ著 「モモ」より

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  1. 包括的な変化
  2. 慢性的な筋緊張
  3. 精神的ストレス
  4. 生活習慣病など




1.包括的な変化


体表の鍼で緊張が解けることで生じる実感しやすい変化の例としては、

○筋緊張がゆるむ|手足が冷えにくくなる|動き方(動かし方)や姿勢の変化
○おなかが動く|消化や排泄の調子が整う|飲食物の内容や量の変化
○気分が楽になる|気持ちの落ち込みが浅く短くなる|視点や考え方の変化
○呼吸が深くなる|リラックスできるようになる|休息や睡眠の変化

などがあります。
変化は身体内部の様々な働きにも及び、治癒や回復が促進されます。


そういった変化は施術直後に実感する場合もありますし、様々な施術後の反応を経て実感する場合もあります。
また、とても自然に変化していくことで明確に分からない場合もあります。
特に記憶や感情の混乱から集中力が低下していると、心身の変化を観察しにくいです。

しかし鍼治療を続けていくうちに、
「言われてみたらあの問題が気にならなくなっている」
「はっきり分からないけど何となく調子がよい」
などと実感される方も多いです。
身体感覚に敏感な人、スポーツや演奏などを日常的にしている人などは変化に気づきやすいです。

長期的な取り組みの場合、推移(効果)は客観的指標や自分なりの目安を持つと分かりやすいです。
病院での定期的な検査(数値)やご自身で何か記録をつけたりすることで、一時的に状態が揺れ動いても落ち着いていられるようになります。

緊張が心身に及ぼす影響は一般に考えられているより遥かに大きいため、それが解消されることで生じる変化(効果)も幅広く深いです。
特に慢性的な問題に対して大きな意味を持ちます。

身体を包んでいる皮膚に鍼をすることで包括的な変化が生じます。
表面的なようで根本的な、遅いようで早い、遠回りなようで直接的な取り組みです。


  

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2.慢性的な筋緊張


“皮膚は~要するに筋のトーヌスを調整する器官の一つなのである”

「皮膚-自我」 ディディエ・アンジュー著


慢性(習慣)的な緊張の中で、実感しやすいのが筋肉の緊張です。
慢性的な筋肉の過緊張は頭痛・肩痛・肘痛・腰痛・膝痛などの慢性的な痛みや、肩こり、頭重感、顎関節症、ムチウチ症状、手足の冷え、呼吸や睡眠の浅さ、姿勢などに現れてきます。

長く深刻な問題を抱えている場合、多くは単独の筋肉の緊張ではなく様々な筋肉が関連した緊張筋群・緊張筋系統となっています。
関節(アライメント)も影響を受けて、動きやバランスが制限・制約されます。
それらは日常動作だけでなくスポーツや演奏などのパフォーマンスにも影響を及ぼします。
また常に余分(無理)な力を入れ続け、重荷を背負った状態ですので疲れやすくなりますし疲れが抜けにくくなります。
循環や消化排泄など身体内部のはたらきにも影響が及びますし、精神的にも自分や外部のことが部分的に感じにくくなったり逆に過敏になったりします。


慢性的な筋緊張が生じている場合、本人は自分がそこにそのように力を入れ続けていることを自覚できていません。
部分的に身体状態を意識できなくなって(同一化して)、不要で無理な筋緊張が継続します。
それは記憶から「そこに力を入れておく必要がある」として無意識に行っている習慣です。
そういった問題は外からの強制や一時的な麻痺などで解消することはできません。

たとえば猫背の人が「姿勢を正せ」と命令される等、習慣的な緊張を強く指摘されると、緊張している筋肉はそのままで他の筋肉の緊張を強めて見せかけのバランスを取ろうとします。
その結果、新たに不要な筋緊張が生じて元の筋緊張は更に強まっていきます。

強い刺激や筋弛緩薬や電気刺激で慢性的な筋緊張を一時的に(ショック療法的に)変化させることは、それと似ていると思います。
即座の変化(即効)は生じるでしょうが、何の気づきもないままその状態を「異常」として再び力を入れ直すだけです。
根本の問題はそのままで、時間をあけてやがてまた戻ってくるか他の問題として現れてきます。
次は緊張が解かれないように以前よりも更に力を入れることでしょうし、「強い刺激を受けないと筋緊張は解けない」といった思い込みも強まります。
そして本質的な解決からは遠のいていきます。


蛇口から流れている水を止めるには手で水を抑えるのではなく、栓を閉めることが必要です。
自分で力が入っていること(力を入れていること)を自覚して、それを解除しなければ根本的には解決しません。
大切なことは強い刺激で緊張を一時的に麻痺させることではなく、形を変えようと無理に頑張ることでもなく、緊張の認識(気づき)であり理解です
ここでアプローチするのは「緊張した筋肉(によるコリや痛み)」という結果ではなく、緊張の指示を出している「記憶-習慣」であり神経系と同じ外胚葉由来の皮膚表皮(体表)です。

体表のツボは自己イメージと現状、そして皮膚と筋肉のアンマッチを調整する(気づく)ポイントです。
余分な(不要な)力が入っている場合、自己(身体)イメージと実際の身体状態との間にギャップが生じています。
それは体表(皮膚)と筋肉の緊張・弛緩のギャップとなっており、体表のどこかに意識できない(意識が薄い)部分が生じています。
体表のツボに鍼をすることでそういったギャップが調整され、不要な筋緊張が解けていきます。

根深い習慣となっている筋緊張がスムーズに解除できることは稀であり、少しずつ解いていくことになります。
多くの場合、施術で変化した筋緊張はそれまでの習慣によって次第に元の状態に戻されていきます。
しかし、たとえ元に戻されても、体表への微細な鍼刺激で筋緊張が(たとえ少しでも)変化したことを実感することは無意識に行っていた習慣に楔(くさび)を打ち込むことになります。
それは知らない場所で道にマーキングをしていくのと似ています。
筋緊張が戻ってもマーキングした状態は記憶に残り、普段の(不要に筋肉が緊張した)状態との差異を埋めていくプロセスが始まります。

鍼治療を続けていくことで体表を意識する能力が高まり、緊張に対する気づきが生じやすくなります。
意識できなくなっている(同一化している)習慣化した緊張状態を対象として認識できるようになり、「今ここではそのように力を入れておく必要がない」という理解が深まります。
それに伴なって緊張の程度が以前より弱まり、緊張が戻ってくるのが遅くなり、自然と気にならなくなっていきます。
そして更により深い緊張を意識できるようになっていきます。



不要な筋緊張を解除することは筋肉を鍛える(筋力を高めたり維持する)ことと同じかそれ以上に重要です。
ここでの鍼治療は自身の筋緊張を認識(観察)し、解消するトレーニングとなります。
識別力や集中力を高め、やり方を学び、自然になされるように習得することが大切です

そして逆説的ですが、

○頑固なコリにこそ微細な柔らかいアプローチ
○深層筋の強い緊張にこそ表層(表皮)へのはたらきかけ
○局所の問題にこそ全体的な取り組み

が効果的だと感じています。



鍼治療を通じてそれまで馴染んでいたバランスや動き方から新たな道へと挑戦していくことになります。
意識できないまま緊張させている筋肉に対して他の筋肉もバランスを取るために緊張していますし、動きの際は代償動作(運動)をしているなど問題が拗れています。

表層の意識しやすい緊張から解除されてバランスや動きが変化していくことで、それまで気にならなかった部分(筋肉)が気になったり、ある種の痛みを感じたり、不安感や抵抗感が出てきたりするなど習慣の根深さに応じて様々な変動が生じます。
そういった変動を少しずつ消化していくことで、緊張が解けた状態や解き方が身についていきます。

そして不要な筋緊張が解けていくことで部分のバランスが全体に統合され、重心が安定し、“その人にとって”より無理のない姿勢となっていきます。
(個別性を無視して理想的な姿勢をつくるわけではありません)

末端の特定部分に力が偏る動き方から、他の部分と連動したより効率的な動き方となっていきます。
身体を包む皮膚表皮へ鍼をすることで、断片(フラグ)化した身体イメージという情報が統合・最適化されます。
そして特定の部分に負担をかける習慣的な姿勢や動き方が変化することは、身体内部のはたらきにも影響を及ぼします。

また、精神面にも影響します。
身体が実際に「していること(力を入れていること)」を知ることで、自分が本当は何を大切にしたいのか、何に力を注ぐのか等が変化していきます。
たとえば単に「肩こり」と言っても、長年に渡って苦しんでいる人の肩こりの場合、記憶と習慣を根底にして動き方や姿勢、感じ方や考え方、感情の抑圧、人間関係など、あらゆることが関連しています。
慢性化した筋緊張(肩こり)が解消していくプロセスは「肩の凝らない生き方」への転換であり、長らく背負っていた重荷から身体を解放する道のりとなります。



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3.精神的ストレス


“たぶんこれは真実だろう 皮膚伝導反応なしに、ある情動に特有な自覚的な身体状態をもつことはない。”

「生存する脳 Descartes'Error」 アントニオ・R・ダマシオ著


鍼灸(東洋医学)では精神と身体を切り離して観ることはしません。
身体の緊張は精神的な問題も反映しています。
特に上記の慢性的な筋緊張と精神的ストレスは密接に関連しています。
体表はそれら(心身)の問題を改善していくための観察対象であり、施術対象です。


境界である体表(皮膚)への自然な意識は、”今ここで自分がどのように感じているか"に気づくために必要です。
それは自分を守るための境界となります。
しかし過度な緊張状態に陥ると、体表(状態)への自然な意識を妨げられます。
(一時的に大きなショックを受けた場合だけでなく継続的にストレスを受けた場合もあり、程度と時間の両方が関係します。)

自分がどのように感じているかを(部分的に)見失うことで、精神的な境界が部分的に機能しなくなります。
治り切っていない傷跡や手術跡による皮膚の瘢痕が運動制限や拘縮を起こすように、治り切っていない精神的な傷は心の働きを制限します。
ストレスが精神的な境界線を容易に侵し、また問題が拗れやすくなり回復も遅くなります。


緊急時には生存のために、感情や感覚を意識しないまま行動することが必要となる場合があります。
そういった反応は元々人に備わった機能です。
しかし、その場を生き残る(乗り切る)ために行ったことが部分的に解除(解消)されないまま続いてしまうことがあります。
それは一時的・部分的な仮死状態(擬死・死んだふり)であり、いつかどこかで息を吹き返す必要があります。

東洋医学では外部(外界)から内部を衛(まもる)ために、体表を巡っている気を「衛気(えき・えいき)」と呼んでいます。
そして東洋医学では怒・喜・思・悲・憂・恐・驚といった感情の偏りが度を越すと、病気の因(内傷・内因)になると言われています。
また、「内傷なければ外邪入らず」という言葉もあり、感情の偏りによって外界環境(風・暑・湿・燥・寒・火)への適応力が弱くなるとしています。
内傷は自他境界で生じる傷であり、身体と心を守るための境界(衛気)が機能不全に陥っている状態と言えます。

緊張状態が続くことで次第に不安感、過敏な反応、抑鬱、集中困難等の精神的問題や、首肩のコリや頭重感、疲労感、身体各部の痛み、不眠、摂食や消化・排泄の不調といった身体症状も現れてきます。
その人の弱い部分から大きな問題となって表面化してきます。

その状態のまま、現れた症状を薬や強い刺激で抑え込もうとするのはアクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものです。
たとえ一旦良くなったように感じても、問題は時間をおいて、もしくは他のところで更に拗れて現れてきます。
特に慢性的な精神的ストレスによって自分の気持ち(感情)が麻痺している場合、強い刺激はそういった麻痺を更に強めることになります。
車を停めるにはまず自分がアクセルから足を離すことが必要です。



当院の鍼治療は習慣となっている緊張を解いていくサポートです。
体表のツボは精神的なストレスに対する境界(防衛線)の穴であり、意識できなくなっている緊張や心の傷に気づくポイントです。
そういったツボへの微細な鍼刺激で少しずつ緊張を解いていくことになります。
(根強い習慣となった緊張は強い刺激で一度には解けません。胃腸が弱っている時に元気になろうとして刺激物をたくさん食べても更に胃腸が弱ってしまうように、ストレスで弱っている皮膚に何か強い刺激をしても更に悪化していきます。消化管も体表も外界との接触面であり境界です。)


体表から緊張を解いていくことで、それまで意識できなかったストレスが認識されていきます。
抑圧していた感情や記憶に向き合うことは衝撃となりますが、体表の鍼治療はそういった認識に伴なう反応(ショック)を緩衝します。
緊張やストレスは認識されること、注意深い観察と理解によって次第に消化されていきます。

そのような緊張で閉ざされた(閉じ込めていた)問題の処理は、「境界(体表)を侵害されない接触=安心できる状態」でこそ生じます。
それをポイントで集中して行うのが鍼治療です。
それは心に刺さったままとなっている棘を抜いていく作業であり、東洋医学的に言えば、体表を巡っている衛気の滞りを解消しその機能を高めていきます。


それに伴なって、

○それまでと異なった視点で問題を捉えなおす
○意識できなかった感じ方や考え方、行動のパターンに気づく
○自分の問題と他者の問題を区切れるようになる

などの変化が生じてきます。

特定の感情や記憶の渦に飲み込まれる習慣が対象化されていくことで弱まり、同じパターンに引きずりこまれる程度や頻度が少しずつ下がっていきます。
他者の問題に巻き込まれたり振り回されても、自分の消耗や落ち込みが大きくなる前に早めに引き返せるようになりますし、より自然とバランスが調整されるようになります。
精神的なストレスがゼロになるわけではありませんが、人間関係や物事の感じ方・考え方、行動などが以前より無理のないものへ落ち着いていきます。

そういった回復のプロセスは途中で後戻りすることやキツイ時もあります。
それまで抑圧してきた未処理のままの問題(つらい感情を伴なう記憶)に気づくことは、鍼で緩衝されても、少なからず心の痛みや変動を伴ないます。
特に長期間緊張状態が続いている場合(幼少期のトラウマ)は問題も根深く、回復や発達にも時間がかかります。

よくなってきた問題が何かの出来事をきっかけに大きく後退することもありますし、それまでできていたことが一旦できなくなることもあります。
それまで感じられなかったことを感じ取れるようになっていくことで他者との関係において一時的に傷つきやすくなったりすることもあります。
しかし長い目で見ると少しずつ進んでいき、変動は徐々に収まっていきます。
そして「自分」という枠組み(境界)が再編されていくのに伴なって不安や焦りが減り、安心感や自信が回復してきます。

体表の鍼治療は精神的ストレスや心の古い、深い傷からの回復を後押しするとともに、ストレスに対する精神的な防衛システムの修復や発達のサポートとなります。



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