代表的な効果


体表の鍼の効果について

“医学にとどまらず、すべてにおいて、現代では何でも、いますぐ、直接に効く対症療法を考える。しかし、その即効性というのが何を代償にしているのかということを考えない。もう、なんというか、あきれるほどお人好しなやり方です。”

        「三つの鏡―ミヒャエル・エンデとの対話」 (井上ひさしとの対談:子孫にしかける戦争より) ミヒャエル・エンデ (@Michael_Ende_jp)

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  1. 包括的な効果
  2. 慢性的な筋緊張
  3. 精神的ストレス
  4. 生活習慣病




1.包括的な効果


体表の鍼で生じる自覚しやすい変化としては、

などがあります。

そういった変化は施術直後に感じる場合もあれば、様々な施術後の反応(こちら)を経て実感する場合もあります。
また、明確に実感できない場合もあります。
「言われてみたらあの問題が気にならなくなっている」、「はっきり分からないけど何となく調子がよい」ということも多いです。
(身体感覚に敏感な人、スポーツや演奏などを日常的にしている人などは変化に気づきやすいと思います。)
長期的な推移(効果)は病院での定期的な検査(数値)やご自身で何か記録をつけたりするなど、客観的指標や自分なりの目安を持つと分かりやすいです。

体表は神経(自律神経)・内分泌・免疫、感情などと密接に関連しており、慢性的な緊張を解く要所です。
緊張が心身に及ぼす影響は一般に考えられているより遥かに大きいため、それが解消されることで生じる変化(効果)も幅広く深いです。
その効果は学習されていくことで自身で再現できるようになり(身につき)、自然なものになっていきます。
それは本来の調子を取り戻していくプロセスと言えます。
身体を包んでいる皮膚に鍼をすることで心身の包括的な変化を促します。

(対象となる問題の例としてはこちらをご覧ください)


  

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2.慢性的な筋緊張への効果

慢性(習慣)的な緊張の中で、実感しやすいのが筋緊張です。
慢性的な筋肉の過緊張は頭痛・肩痛・肘痛・腰痛・膝痛などの慢性的な痛みや、肩こり・顎関節症・ムチウチ症状・不定愁訴などとなって現れます。

運動後の筋肉痛や同一姿勢を続けた場合の一時的な疲労とは異なり、 慢性的な筋緊張は時間の経過とともに回復していきません。
(急性の筋肉痛や衝撃なども適切に処理されないまま残ると緊張が慢性化していきます)
様々な筋肉が関連した緊張筋群、緊張筋系統となって、骨も筋肉に引っ張られてズレが生じます。
そして関節(アライメント)なども影響を受けます。(よく言われる、“背骨のズレ”等も引き起こしたりします)
動きや重心バランス(姿勢)が制限・制約されるため、日常動作だけでなくスポーツや演奏などのパフォーマンスにも負の影響を及ぼします。
また、常に余分な力を入れ続け、重荷を背負った状態ですので疲れやすくなります。
血流や内臓のはたらきにも影響を及ぼしますし、余分な力が入っていると重さなどの差異が感じ取りにくいように、精神的にも自分や他者(外部)のことが感じ取りにくくなったりします。

本人は自分が力を入れ続けていることを自覚できないため、緊張を解除できません。
部分的に身体状態を意識できなくなっており、不要(無理)な筋緊張が継続します。
そういった筋緊張は何らかの記憶から「そこに力を入れておく必要がある」として無意識に行っている習慣です。

そういった問題は外からの強制や指摘、一時的な麻痺で解消することはできません。
たとえば習慣的な緊張を強く指摘されると(たとえば猫背の人が「姿勢を正せ」と命令される等)、緊張している筋肉はそのままで他の筋肉の緊張を強めて見せかけのバランスを取ろうとします。
新たに不要な筋緊張が生じて元の筋緊張は更に強まり、本質的な改善からは遠のいていきます。
筋弛緩薬や電気刺激で一時的に麻痺させると即座の変化(即効)は生じるでしょうが、何の気づきもないままその状態を「異常」として再び力を入れ直すだけです。
次は緊張が解けないように以前よりも更に力を入れるでしょうし、「強い刺激を受けないと筋肉はほぐれない」といった思い込みも強まります。

自分で力が入っていること(力を入れていること)を自覚して、それを解除しなければ根本的には解決しません。
蛇口から流れている水を止めるには水を手で抑えるのではなく、栓をまわして閉めることが必要です。
必要なことは強い刺激で緊張を一時的に麻痺させることではなく、無理に頑張ることでもなく、緊張の認識(気づき)であり理解です。
施術でアプローチするのは「緊張した筋肉」という結果ではなく「記憶-習慣」という過程であり、筋肉ではなく神経系と同じ外胚葉由来の皮膚表皮(体表)です。

体表のツボは身体イメージと現状(現実)、そして皮膚と筋肉(の弛緩・緊張)のアンマッチを調整する(気づく)ポイントです。
余分な(不要な)力が入っている場合、体表のどこかに意識できない部分があります。
自己(身体)イメージと実際の身体状態との間にギャップが生じており、それは皮膚と筋緊張のギャップとして現れます。
そういったツボに明確に意識できない鍼刺激をすることで、皮膚が筋肉の緊張に合った状態に変化(移動)し、調整され、筋緊張が解除されます。
緊張の習慣が弱い場合や識別力が強い場合は、それで緊張状態への気づきが生じ、「もうそのように力を入れておく必要がない」という理解によって緊張が解消します。

緊張の習慣が強い場合、筋緊張の変化は以前の習慣によって元の状態に戻されていきます。
しかし「筋肉をほぐされた」という認識がないまま、筋緊張が(たとえ少しでも)変化したことを実感すると不思議な感じがします。
その感覚(普段の状態との差異)を体感することは、知らない道にマーキングしていくのと似ています。
筋緊張が戻ってもマーキングした状態は忘れず、その差を埋めていくプロセスが始まります。
鍼治療を続けていくことで識別力や観察力が深まり、より明確に感じとれるようになっていきます。
意識できなくなっている(同一化している)習慣化した筋緊張を対象として認識するようになり、どこに緊張があり、何に緊張しているか理解していきます。
理解に伴なって緊張の程度が弱まり、緊張が戻ってくるのが遅くなり、自然と気にならなくなっていきます。
やり方を学び、自分でできるようになることが重要なのです

そのプロセスは身体感覚を識別し、不要な緊張を解除していく練習です。
基本的に身体の練習ですから、効果を上げるためには「トレーニングの5大原則」が当てはまります。

  1. 漸進性の原則・・・結果を焦らず徐々に効果を積み上げていくこと
  2. 全面性の原則・・・特定の部位だけでなく全身を鍛えていくこと
  3. 意識性の原則・・・本人が目的を意識して主体的に取り組むこと
  4. 個別性の原則・・・個人の目的や現状に合ったアプローチをすること
  5. 反復・継続性の原則・・・一定期間に渡って定期的・継続的に取り組むこと
筋肉を鍛えていく(筋力を高めていく)ためのトレーニングに関してはよく行われますが、不要な筋緊張をOFFするトレーニングはあまり行われません。
しかし痛みを解消するため、動作を楽にするため、スポーツ・演奏などのパフォーマンスを向上させるために、不要な筋緊張を解消していくことは重要です。
そして逆説的ですが、

などが効果的だと感じています。

そういった習慣的な筋緊張の解除は、問題が根深い場合、スムーズに解除できることは稀です。
意識できないまま緊張させている筋肉に対して、他の筋肉もバランスを取るために緊張していますし、動きの際は代償動作(運動)をしています。
鍼施術によって意識しやすい緊張から解除されていきますが、それによってバランスや動きがそれまでとは変化していきます。
それまで気にならなかった部分(筋肉)が気になったり、痛みを感じたり、不安感や抵抗感など、様々な変動が出てきます。
こちらのページの「鍼治療の頻度や回数について」で、「当院の鍼治療の治癒や回復のプロセスは自転車に乗れるようになるのと似ている」と表現したのはこういった点にあります。
それまで馴染んでいたバランスや動き方から新たな道へと挑戦していくことになります。
試行錯誤しながら自分で身につけていくしかありません。
鍼治療はきっかけとなりますが、習得のペースはその人次第です。
問題の改善が途中で後戻りしたように感じることもあります。
しかし施術を続けていくと、そういった変動は次第におさまっていきます。

筋緊張が解けることで部分のバランスが全体に統合され、重心が安定し、“その人にとって”より無理のない姿勢となっていきます。
(個別性を無視して理想的姿勢をつくるわけではありません。それをすると無理が生じます)
末端の特定部分に力が偏る非効率的な動き方から、他の部分と連動したより効率的な動き方となっていきます。
皮膚へ鍼をすることで、断片(フラグ)化した身体イメージという情報が統合・最適化され、パフォーマンスが向上します。
それらは身体内部のはたらきにもよい影響を及ぼしますし、特定の部分に負担をかける習慣的な姿勢や動き方が変化することは精神面にも影響します。
身体が「していること」を知ることは、その背景にある「したいこと・したくないこと」を知るきっかけとなり、自分が何を大切にするのか、何に力を注ぐのか等が変化していきます。

たとえば、単に「肩こり」と言っても、記憶と習慣を根底にして動き方や姿勢、感じ方や考え方、人間関係などあらゆることが関連しています。
長年に渡って怒りや悲しみを抑圧している人の肩こりと、一時的なストレスや仕事増で負荷がかかった肩こりでは本当に治そうとすると全く違う道のりとなります。
慢性化した肩こりが解消していくプロセスは、「肩の凝らない生き方」への転換であり、重荷から解放される大きなドラマとなります。



“皮膚は~要するに筋のトーヌスを調整する器官の一つなのである”

        「皮膚-自我」 ディディエ・アンジュー著 

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3.ストレスに対する効果

鍼灸(東洋医学)では精神的な問題と身体の問題を切り離して観ることはしません。
元々心身両面から考える仕組み(設定)が根底にあるため、東洋医学は自然と両面へのアプローチとなります。
上に書いた筋緊張と精神的なストレスはコインの裏と表のようなものです。

精神的な問題は身体にも反映されますが、その要所が体表(皮膚)です。
体表は精神的な問題を改善していくための観察対象であり、施術対象です。
中でも体表のツボはストレスに対する境界(防衛線)の穴、心身に悪影響を及ぼす思考や感情の反応パターンに気づくポイントです。
体表の鍼治療は精神的ストレスや心の傷からの回復を後押しするとともに、ストレスに対する精神的な防衛システムの修復や発達のサポートとなります。

境界である体表(皮膚)への自然な意識は、”今ここで自分がどのように感じているか"に気づくために必要です。
それは自分を守るための境界となります。
しかし、過度なストレスやショックから緊張状態に陥っていると、体表(状態)への自然な意識を妨げられます。
自分がどのように感じているかを(部分的に)見失うことで、精神的な境界が(部分的に)機能しなくなります。
うまく治り切っていない傷跡や手術跡による皮膚の瘢痕が運動制限や拘縮を起こすように、治り切っていない精神的な傷は心の働きを制限します。

緊急時には生存のために感情を意識しないまま行動することも必要であり、そういった反応は元々人に備わった機能です。
(一時的に大きなショックを受けた場合の他に、継続的なストレスでもそのような反応を引き起こすことがあります)
感情を意識しないために体表状態を無視する(同一化して客観視しない)ことで、緊張状態を継続させています。
しかしそれは一時的・部分的な仮死状態(擬死・死んだふり)であり、いつかどこかで息を吹き返す必要があります。

東洋医学では外部(外界)から内部を衛(まもる)ために、体表を巡っている気を「衛気(えき・えいき)」と呼んでいます。
東洋医学では怒・喜・思・悲・憂・恐・驚といった感情の偏りが度を越すと、病気の因(内傷・内因)になると言われています。
そして「内傷なければ外邪入らず」という言葉もあり、感情の偏りによって外界環境(風・暑・湿・燥・寒・火)への適応力が弱くなるとしています。
内傷は自他境界で生じる傷であり、身体と心を守るための境界(衛気)が機能不全に陥っている状態と言えます。

緊張状態が続くことで次第に不安感、過敏な反応、集中困難等の精神的問題や、慢性的な筋緊張(首肩のコリや頭痛)、疲労感といった身体症状も現れてきます。
そして弱い部分から大きな問題となっていきます。
その状態のまま現れた症状を薬で抑え込もうとするのは、アクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものです。
また、胃腸が弱っている時に元気になろうとニンニクをたくさん食べて更に弱らせてしまうように、慢性的なストレスで弱っている皮膚に対して何か強い刺激をしても更に悪化していきます。
たとえ一旦良くなったように感じても、問題は時間をおいて、もしくは他のところで更に拗れて現れてきます。
車を停めるにはまず自分がアクセルを踏んでいることに気づき、足を離すことが必要です。
当院の施術はそのサポートです。

体表から緊張を解き、注意が体表へ向かうことで、それまで意識できなかった感情やストレスが認識されていきます。
抑圧していた感情に直面することは衝撃となりますが、体表の鍼治療はそういった認識に伴なう反応(ショック)を緩衝します。
感情やストレスは認識されること、そして注意深い観察と理解によって消化されて(手放されて)いきます。

それに伴なって、

などの変化が生じてきます。

特定の思考や感情がグルグル巡る習慣が対象化されていくことで弱まり、同じパターンに引きずりこまれる程度や頻度が少しずつ下がっていきます。
自分の感情の渦に飲み込まれたり、他者の感情に巻き込まれても、そこからの回復が早くなっていきます。
精神的なストレスがゼロになるわけではありませんが、周囲との人間関係や物事の感じ方・考え方、行動などが以前より無理のないものへ落ち着いていきます。

そういった回復のプロセスは途中で後戻りすることやキツイ時もあります。
それまで抑圧してきた感情に気づくことは、鍼で緩衝されても、少なからず心の痛みや変動を伴ないます。
特に長期間緊張状態が続いている場合は問題も根深く、境界機能の回復や発達にも時間がかかります。
しかし長い目で見ると少しずつ進んでいき、枠組みが再編されていくのに伴なって変動は徐々に収まっていきます。
山や谷を越えるごとに、よい方向へ進んでいるという実感や自信が生じ、安心感、肯定感などが回復してきます。

ここでの鍼治療は体表を巡っている衛気の滞りを解消し、その機能を高めていきます。
それは精神的ダメージから回復するサポートであり、体表を意識する能力(境界)を発達させていくトレーニングです。



“たぶんこれは真実だろう 皮膚伝導反応なしに、ある情動に特有な自覚的な身体状態をもつことはない。”

        「生存する脳 Descartes'Error」 アントニオ・R・ダマシオ著



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